起業・投資のためのシリコンバレーの企業紹介
SRI インターナショナル
掲載:2020/7/22
最終更新日:2020/07/22
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクールの、米国新興株投資や起業を目指すシニア・女性・若年層等への、起業のアイデアとなるシリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。
日本ではあまり知られていないのですが、実は世界最大の研究機関であるSRI International(SRI インターナショナル)と、その子会社であるSRI Ventures(SRI ベンチャーズ)の概要と日本の類似機関について解説します。SRI ベンチャーズは、SRIの開発した技術を元に、Google社などの著名企業を含む民間企業との提携で、毎年多くのスタートアップ企業を生み出しています。
世界最大の研究機関であるSRI International(インターナショナル)は国防省との関係が強い非営利研究機関
SRI インターナショナルは1946年に、スタンフォード大学内の研究機関として、Stanford Research Instituteとして設立されました。1970年に大学から独立、77年にStanfordの名を外し、現在のSRI インターナショナルに呼称も変更しました。
SRI インターナショナルの特徴は、
1. 非営利団体であり企業のように利益を追求していない
2. 企業との共同研究を行い特許をライセンス提供し、スピンアウト企業も多い
3. 政府関係の研究も多く手がけている
ことです。
本拠地はスタンフォード大学のあるスタンフォードよりは少し北、サンフランシスコからは車や鉄道で1時間ほどのFacebookも本社を構えるメンロー・パークです。東部の名門校であるプリンストン大学のあるプリンストンにも、研究拠点を構えています。
また、将来の起業家・アントレプレナーである閲覧者の方でもご存知の方は少ないと思いますが、実は政府のあるワシントンD.C.にも拠点を構えています。これは、政府機関とのプロジェクトを多く抱えているのが理由、とのことでした。
2014年9月からCEOを努めているジェフリー氏も国防省の下部機関の出身であり、政府機関の中でも特に国防省との関係が強い研究機関のようです。
その中でも特に、米国国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency )、通称DARPA(ダーパ)、と呼ばれる組織と密接な関係にあります。
2014年時点での従業員は約2,000名で、売上は約600億円となっています。
SRI International(インターナショナル)に類似する日本の研究機関はどこ?
それでは、日本でSRI インターナショナルに比較される組織といえばどこがあげられるのでしょうか?
まず、最初に思い浮かぶのが、埼玉県和光市を本拠に神戸など各地に拠点を構える「理研」として知られ、生物・医学から工学までの基礎研究を行っている国立研究開発法人「理化学研究所」です。
設立は第一次世界大戦中の1917年であり、第二次大戦直後に設立されたSRI インターナショナルよりも長い歴史をもっています。人員も約3500名と、これもSRIを上回っています。
また、その研究分野は生物、医学、物理学、工学などあらゆる分野に及んでいます。スーパー・コンピューターから山中京大教授のノーベル賞受賞で一般にも知られるようになったiPS細胞まで、その研究は多岐にわたっています。
SRIと同様に基礎研究機関でありながら企業との産学連携に努め、研究成果を製品開発につなげる試みを行っています。
1998年からは「理研ベンチャー」という理研での研究成果を元にしたベンチャー企業育成も開始し、認定企業は2019年10月現在累計49社となっています。
その中では2011年に医師が設立したヘリオスというiPS細胞技術を活用した再生医療分野の企業が、2015年にマザーズに上場を果たしています。
他には「産総研」の略称で知られる、「産業技術総合研究所」もSRIに近い存在といえるかもしれません。研究機関が集積する茨城県つくば市を本拠地とし、東京など日本中に拠点を構える独立行政法人です。
産総研も企業との産学連携に積極的で、その研究員には民間の大手企業出身の方も多いです。
また、SRI同様に、産総研の特許のライセンシング、その知的財産を元にしたベンチャー起業をサポートする取組みも行っています。
産総研が支援したベンチャー企業では、ジーン・テクノサイエンスという2001年に札幌で設立された企業が、2012年にマザーズに上場を果たしています。
リチウムイオン電池材料を開発し2019年のノーベル化学賞を受賞し話題となった吉野博士も、現在は産総研を拠点としているそうです。
日本では大学発ベンチャーが話題だが、米国では研究機関発スタートアップも多い!
日本では研究機関によるスタートアップ企業というのは、起業を目指しているみなさんにも馴染みがないと思います。理研から1社、産総研から1社と、2社しか上場していないこともあるのでしょう。
どうしても、大学発ベンチャーの方に目が向いてしまっていると思います。
しかし日本と異なり、起業の本場である米国においては、SRI インターナショナルのような研究機関発のスタートアップ企業にも注目企業が多いことを覚えておいてください。
SRI インターナショナルは非営利組織ですが、民間企業と同様に最高議決機関である取締役会を有しています。
取締役会は12名のメンバーから構成されていますが、ほとんどのメンバーはWikipediaでその経歴を知ることができる著名人で占められています。
名誉議長は、米国のトップ銀行の1つであるバンク・オブ・アメリカの元CEOの、アーマコスト氏です。議長は、前職が米国でも屈指のスタンフォード大学病院とスタンフォード医学部からなる組織の取締役会議長や暫定CEOを務めたビジネスマンの女性が務めています。ちなみに、日本とは異なり、米国では専門職である医師ではなくビジネスのプロが病院長を務めるのが普通です。
他のメンバーにはスタンフォード大学のMBAの教授もおり、未だにスタンフォード大学との繋がりは強いようです。やはり公式の関係はなくなったとはいえ、場所が近いこともあるのでしょうね。
また、こうした銀行家やビジネスマン、科学者や研究者からなる取締役会メンバー12名の中に、退役将軍や現役の将校など軍関係者が3名も名を連ねています。この点がやはり、他の研究機関にはない特徴だといえるでしょう。
詳細については後述しますが、SRI インターナショナルは軍事関係の開発も多く手がけており、その技術を民間に転用することが特徴だといえばご理解頂けるでしょうか?
SRI International(インターナショナル)の研究員の殆どはPh.D.
SRI インターナショナルではCEOのジェフリー氏はもちろん、その研究員の殆どがPh.D.の称号を誇る各分野に秀でた博士です。筆者は数十人のSRIの研究員を知っていますが、その全員がPh.D.の資格を有していました。また、ビジネスデベロップメント担当のNO.2とのその部下の幹部は研究員ではなくPh.D.ではありませんが、二人共MBAホルダーでした。
日本ではポスドクの就職問題が社会問題となっていますが、米国ではPh.D.を取得していないと技術系の会社や研究機関のトップになるのは困難です。学会では名前の前の称号を選ぶ際に、Mr.やMs. (既婚のMrs.と未婚のMissのどちらにも使えるため女性にはこれが使われる) の他に、Ph.D.が用意されています。
日本で博士号を持たれている起業家・アントレプレナーを目指す女性やシニア・若年層のみなさんは、日本を離れて海外で挑戦されてはいかがでしょうか?優秀な研究者の方が日本を離れるのは国力減少に繋がるのであまりお薦めするのは良くないのかもしれませんが、就職などで悩まれている方はご自分の専門の研究機関や企業にCVを積極的に送付してみるのもありでしょう。
また、これはご存知かもしれませんが、米国では経営幹部になるためにはMBA、その中でもトップ20と呼ばれる有名大学のMBA資格を有することが必須です。
閲覧者の方が起業されて海外展開も考えるのでしたら、海外のカウンターパートと渡り合えるPh.D.やMBAホルダーの方を経営幹部に迎えると海外パートナーの御社を見る目も変わってきますので、頭の片隅にでも入れておいてください。
SRI International(インターナショナル)の主要業務とは?
SRI インターナショナルがカバーする領域はコンピューターやセンサー、半導体からバイオ医療、エネルギーや環境、国防、航空宇宙、素材と多岐にわたっています。
主たる業務は
- 政府や民間企業から資金を獲得した上での研究開発
- 1.から発展させたM&Aも含む戦略的提携
- その技術のライセンス提供
- その技術をスピンオフした上での民間企業との共同でのスタートアップ企業設立
となります。
そして起業家を目指すシニア・女性・若年層の方々に一番興味があるであろう4.を担当しているのが、後述する子会社のSRI ベンチャーズです。
SRI International(インターナショナル)が開発してきた製品はみなさんの周りにもある!
SRI インターナショナルが世界で初めて研究・開発してきた製品は、実はみなさんの周りにも沢山あります。メンロー・パークのSRI インターナショナルの本拠地のロビーには、そうした開発製品が、主にガラスケースの中に展示されています。様々な展示品の中から、特に「そうなの!」と驚かれるはずの製品を、将来の起業家・アントレプレナーとなられるシニア・女性・若年層の方々に紹介していきます。
まずは、みなさんが毎日のように使っているであろうPCのマウス。これも実はSRI インターナショナルのダグラス・エルゲンバート氏が開発した製品です!ガラスケースの中にマウスの最初の試作品が飾られていました。これがなければ仕事ができないというマウスも、このように研究機関の基礎研究を母体とした製品化の中で産まれたわけです。
そして、当初のビジネスマンや富裕層だけでなく、現在では学生や主婦、さらにはシニアの方など、あらゆる人の生活に欠かせない製品となっている携帯電話!昔のアメリカ映画によく登場する警察無線同様、かつては携帯電話世界最大手だったモトローラ社が開発した製品だと思いこんでいました。しかし、これもSRI インターナショナルが最初にてがけたとのことです!
さらに、薄型テレビが大画面でも数万円で購入できるようになった立役者であり、PCやスマホにも欠かせないLCD。これも実はSRIの発明品なのです!
そして、現在のインターネットの元祖であるARPANET、UCLAとSRIの前身のスタンフォード研究所が中心となり開発されました。
SRI インターナショナルがマウスや携帯電話、LCD、インターネットを発明していなかったら、またはその発明からの製品化が遅れていたならば、起業・スタートアップを目指すみなさんの現在の生活は非常に不便なものになっていたことでしょう。
携帯電話やマウスが一般に普及したのは実は21世紀に入ってから!
ここで、携帯電話はお金持ちだけのもので、一般には固定電話と公衆電話が主流だった時代。そして、ワープロがまだ使われていて、マウスが存在しなかった時代を思い出してみましょう。
総務省のデータによると、携帯電話の普及率が50%を超えたのは2000年です。マウスのウィキペディアによると、一般向けのマウスをマイクロソフトが発表したのが1999年ということです。
つまり、携帯電話とマウスが普及したのは実は21世紀に入ってからなのです!20世紀までは一般の方はポケベルやPHSを使い、パソコンもマウス無しで操作していたのです。もう想像もつかない世界ですよね?
さらに、最近は日本人でも利用する方が増えてきた音声認識ツール。スマホに話しかけると、ヴォイスメモとなったり、ナビでの行き先を表示してくれるなど、非常に便利ですよね?その走りであるiPhoneユーザーにはおなじみのSiriも、SRI インターナショナルの前代表だった研究者が開発した製品だそうです。
SRIがもし存在していなかったら…と思わず考えてしまいました。
世界初の手術ロボットもSRI International(インターナショナル)が開発!
また、日本では腹腔鏡手術での失敗による多くの死亡例が報道されるなど、腹腔鏡手術自体も普及があまり進んでいないようです。しかし米国では、腹腔鏡手術を人間でなく遠隔操作でロボットが手がけることが当たり前となってきています!
かつて巨人軍のレジェンドである王貞治さんの手術で使用され話題となった世界初の腹腔鏡手術ロボットのda Vinci。
ルネッサンス期の天才画家として誰もが知っている「モナリザ」で有名なレオナルド・ダ・ヴィンチは、実は建築家や幾何学者、解剖学者でもありました。あらゆる分野に功績を残した天才であることを、ご存知の方も多いでしょう。そのダ・ヴィンチから名付けられたda Vinciは、多くの経験を必要とする腹腔鏡手術を、手術経験の少ない新人の医師でも可能にすることで、低侵襲医療の発展に大きな功績を上げています。
このda Vinci も、1980年代にSRI インターナショナルがアメリカ陸軍と共同で、戦場での遠隔操作手術を目的として開発した製品です。この技術を転用してSRIからスピンアウトしたIntuitive Surgical社が1999年に製品化した手術支援ロボットがda Vinci、というわけです。
ロボット手術においてda Vinciに匹敵する企業はありません。そのため、SRIのロボット部門は世界中の投資家から注目を集め、その後もロボット部門からのスピンアウト企業を輩出していくこととなります。
SRIとベンチャー企業とは世の中の役に立つ製品をローンチするという真の産学連携を行ってきた!
上述でSRIインターナショナルが開発した製品として、PCのマウス、携帯電話、インターネット、LCD、Siri、da Vinciについて紹介しました。
そのマウスを一番積極的に取り入れ、Siriを採用した企業はアップルです。そして、携帯電話を製品化したのは、かつてはGEなどと並びエクセレント・カンパニーの1つとされていたモトローラです。
このSRIのような研究機関や大学と企業が連携し、基礎研究の成果を製品として実用化してきたという事実が、GAFAを始めとするシリコンバレーのベンチャー企業が自前の大きな基礎研究所を持つ日本の大企業を追い抜いてしまった最も大きな理由と言っても差し支えないでしょう!
米国と比べた日本の研究機関やサラリーマン社会の問題点は、モチベーションよりも妬みが支配している事!
日本の研究機関の問題点は、基礎研究と製品開発との間に大きなギャップがあることです。
理研も産総研も、産学協同や、自社の特許や知財から生まれたベンチャー企業を支援する体制を整えていますが、残念ながら上場企業がそれぞれ1社ずつという状況である事実は、既に紹介したとおりです。
どなたでも使われているようなマウスや携帯電話などの製品は、私の知っている限りでは存在しないと思われます。前述の、現在は産総研に在籍されているリチウムイオン電池の研究で2019年のノーベル化学賞を受賞された吉野氏も、旭化成のご出身です。
名ばかりの体制を整えるだけではなく、研究機関と企業との共同研究や事業化による産学連携を積極的に促進していく仕組み作りが日本では必要なのではないでしょうか?そして、物質的な体制ではなく精神的な体制の変化がより重要だと思われます。
SRI インターナショナルの例を参考にしますと、具体的には、研究者を縛り付けずにその起業を積極的に認め、該当技術に興味のある企業とマッチングさせ、スピンアウトを促進させる。
そして、ここが更に重要なわけですが、スタートアップ企業のストックオプションをスピンアウトした研究者だけでなく、研究機関自体やスピンアウトに携わった研究機関に残った従業員に付与するなどが考えられます。
こうしたWin-Win(ウィンウィン)の体制を整えていかないと、モチベーションも湧いてこないのではないでしょうか?
また、ご自分よりも能力や年齢が下だと思っている同僚が、スピンアウトすることにより、成功した場合には巨額の資産となるストックオプションを持つことに妬みを持つのが、日本企業のサラリーマン意識です。研究機関からのスピンアウトを加速化するためには、機関に残る関与した従業員にも柔軟にストックオプションを付与することで、徐々にこうした妬みの意識を根絶することも必須でしょう。
現在の日本の研究機関や会社社会は、モチベーションではなく妬みが支配する、Lose-Lose(ルーズルーズ)の世界になっています。
ここで、米国の2017年の学生に人気のトップ25企業ランキングをみてみましょう。
彼等が目指すのはウォール街を代表する投資銀行やコンサルティングファーム、そしてGAFAやテスラなどのベンチャー企業です。投資銀行やコンサルは同じですが、30年前のランキングには、前述のモトローラやIBM、GE、コダックなどのエクセレントカンパニーと呼ばれた大企業が上位に入っていました。全く顔ぶれが異なるわけです。
しかし新しい年号である令和が始まった日本では、2020年の大学生の就職希望企業ランキングには、商社、銀行、損保、メーカーなどの大企業が並んでいます。20年〜30年前の平成元年から10年の文系就職ランキングと理系就職ランキングと比較してもほとんど顔ぶれが変わっていないことに驚かれるのではないでしょうか?
このように起業家精神が旺盛でリスク・テイクな米国人と、公務員が人気でますますリスク・アバースになってきた日本人という国民性の違いもあると思います。
しかし、起業を後押しする制度や文化を含めた土壌が育っていないことが1番の原因なのではないでしょうか?
是非ともこれから起業・スタートアップされるみなさんの力で、日本の現状を変革して頂きたいと願っています。
著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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